おおきく振りかぶって 2巻

ひぐちアサの、「おおきく振りかぶって」2巻。タイトルからも分かる通り(?)、野球漫画。でも主人公の投手は、あまり大きく振りかぶるピッチングはしない。ちなみに高校野球
ひぐちアサ作品は、古本屋でジャケ買い*1した「ヤサシイワタシ」の1巻が最初の出逢い。今思えば、よくぞ買ったものだと思う。
書店で「おお振り*2の1巻を見付けた時には、
「あの人が野球漫画を?」
と、多少の驚きを感じながらかって帰ったのを覚えている。…なんて話はどうでも良くて、
いや、何はともあれ、面白いんだわ。この漫画。
2巻は半分くらいが試合のシーンなんだけど(残りの半分は”α波”の解説*3)、漫画なのに手に汗握って読むような感覚。


主人公三橋は(全力投球をしていないという理由はあるものの)抜群のコントロールを持っている投手。全力投球していないので、球は遅いし、(高校一年生にしては)多くの変化球を知ってはいるものの、強烈な変化をする球は持っていない。性格は気弱で、常におどおどしている。そして、高校に入って出逢った理論派の捕手、阿部。
この二人の主要キャラクターを見て、お分かりだろうか?この漫画は、野球マニアなら多かれ少なかれ持っている野球理論を楽しめる漫画なのだ。
抜群のコントロールと変化球によって、捕手阿部の理論を体現する三橋。ただし球威がないから、理論に穴があれば簡単に手痛い一発を喰らってしまうというスリルがある。あと、精神的にもろいから、何かきっかけがあればそれがすぐに理論の崩壊につながりかねないというスリルもある。
実際はプロの投手であっても深い理由もなく失投することはある。外のつもりが内に寄ってしまったり、その逆だったり。でもこの漫画の主人公の場合にはそれはない。精神的に揺さぶられたりしなければ、狙った場所に球が行く。ただしその精神的な揺さぶりには非常に弱い。
ここらへんの危ういバランスが、この漫画の(野球ファン的に)楽しめるポイントなんじゃないかな。


台詞の間とかえらい悪いのは間違いなく作者の意図で、ひぐちアサのこういう社会性に欠け気味*4の人間を分かりやすく描写するテクニックは、前作の「ヤサシイワタシ」からきっちりと踏襲している。
特に主人公の台詞のもたつき感は見事で、そりゃあ周りも腹が立つよな、って感じ。この主人公が、チームメイトたちとの信頼関係を少しずつ少しずつ*5築いていくのも、この漫画のテーマ*6になってるんだと思う。
野球好きでない(野球に詳しくない)人でも、その理論を丁寧に*7説明してくれるから、理論勝負の世界に入っていくこともできると思うし、ここらへんの人間ドラマを楽しむのもいいかもしれない。
個人的にはベスト野球漫画のトップ3に食い込んでます。


ところで、キャラクターの名前を確認するために検索エンジンにかけたりしたんだけど、(少なくともネット上では)人気あるんだなあ。この漫画。いや、自分が面白いと思う漫画に人気があると、嬉しいよね。
…ちょーっと違う方面*8での人気も高いみたいだけど、えーっと、いいのか?あのキャラで…。
結構ドキドキしながら読めますよ。これ。

*1:漫画においてこの言葉が適切かどうかは不明

*2:こう略すらしい

*3:やや嘘

*4:カドの立つ言い方だなあ

*5:本当に少しずつなんだ、これが

*6:ここらへんはひぐちアサ作品全般に言えそうだけど

*7:たまに丁寧すぎる

*8:掛け算とか使います